かき氷と寄席夏の夕暮れ、君と神楽坂の小さな寄席に出かけた。開演まで時間があったので、路地裏の甘味処でかき氷をひとつ。君は苺、僕は宇治金時。向かい合って食べていると、頭がきんと痛くなって、ふたりして笑った。
「落語家さんも、こんな顔するのかしら」 君の言葉に、僕はさあね、と答えた。 寄席の木戸をくぐると、三味線の音が聞こえてきた。客席のざわめき、扇子の動き、噺家の声。君の肩が小さく揺れている。
帰り道、君はまだ笑っていた。夏の夜は、いつまでも明るかった。
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君とピアノと、初夏の記憶
噴水の縁に腰掛けていると、彼女が言った。「スポルディングって知ってる? ブラッドベリの、空飛ぶ靴の話よ」 水しぶきの向こうで、少年が両足を蹴った。古いスニーカーが銀色の翼をひろげ、街の屋根を越えていく。 「いつか、あの靴で君を迎えに行くよ」 彼女は笑った。噴水の水音が、遠い夏の拍手に聞こえた。
噴水のそばで、君は自転車のベルを鳴らした。夏の午後、どこへ行くとも決めず、坂道を下っていく。風がシャツをふくらませ、街角の花屋でひまわりが揺れた。「あの頃も、こんなふうに走ったね」君の声が、遠い青春を連れてくる。ペダルを踏むたび、昨日と明日が、ひとつの道に重なっていった。
ブナの林か楢の林か、よく覚えてはいない。
ただ、夏の光が木々の間から降り注いで、地面にいくつもの影を落としていたことは覚えている。蝉の声が遠くで響き、草むらの奥から、何かが飛び立つ音がした。
昆虫取りに出かけた夏の事だった。
家の近くは、それはそれでファンタジーワールドが多くて、ちょっとした坂道を越えれば、もう別の世界に入り込んだような気がした。古い農家の裏手には小さな林があり、その向こうには、誰も名前を知らないような池があった。水面には青い空が映り、時折、銀色の魚が跳ねた。
何故か女の子と一緒に、クワガタとかカブトムシとか捕っていたような気がする。
彼女は僕よりもずっと虫に詳しかった。
「そこ、木の根元。いるよ」
そう言って、彼女が指差した先には、樹液の滲んだ古い木があった。僕がそっと近づくと、黒いクワガタが枝の陰から姿を現した。角のような大きな顎を持ち、まるで森の番人のようだった。
「捕まえるの?」
「うん。でも、あとで逃がしてあげようね」
彼女はいつもそう言った。
僕らの最大のターゲットは玉虫だった。
あのキラキラしている奴。
本当にいるのかどうかも、よくわからなかった。大人たちは、昔はこの辺にもたくさんいたんだと言っていたけれど、僕らが探しても、なかなか見つからなかった。
玉虫は、夏の光をそのまま小さな身体に閉じ込めたような虫だ。緑とも青ともつかない、見る角度によって色を変える、不思議な輝き。
「見つけたら、どうする?」
彼女が聞いた。
「標本にする」
僕はそう答えた。
「ええ、もったいない」
彼女は笑った。
「じゃあ、どうするんだよ」
「一緒に眺めるの」
そう言って彼女は、木漏れ日の中を歩いていった。
僕はその後を追った。
林の奥へ入ると、急に風が止んだ。そこには小さな空き地があって、草の上に、僕ら二人の影が長く伸びていた。まだ昼過ぎだというのに、影はずいぶんと大きかった。
彼女の影は、麦わら帽子のつばが広くて、まるで見知らぬ少女の影法師のようだった。
「ねえ、あそこ」
彼女が囁いた。
一本の楢の木の幹に、何かが光っていた。
僕らは息を止めた。
それは、玉虫だった。
樹皮の割れ目にじっと止まって、陽の光を浴びていた。緑の背中が、金色に変わり、また青くなった。まるで小さな宝石が、森の中で呼吸しているようだった。
僕は虫籠を下ろした。
彼女も黙っていた。
しばらくして、玉虫は翅を広げた。
その瞬間、木漏れ日が一斉に揺れた。玉虫はふわりと飛び立ち、僕らの頭の上を越えて、林の向こうへ消えていった。
「ああ」
僕は思わず声を上げた。
「逃げちゃったね」
彼女は残念そうでもなかった。
「でも、見られたじゃない」
僕らは、いつまでもその木の下にいた。
帰り道、僕は虫籠の中のクワガタを見た。彼女は、捕まえたカブトムシを両手で包んでいた。夕方の光が林の奥から差し込んで、僕らの影をまた長く伸ばした。
「来年も来ようね」
彼女が言った。
僕は頷いた。
来年も、あの林はあるだろうか。玉虫はまた、あの木に来るだろうか。
そんなことを考えながら、僕らは家へ帰った。
そして、いつの間にか、彼女の姿も、林の匂いも、夏の光も、みんな遠い記憶になってしまった。
けれど今でも、夏の日差しが強くなると、ふと思い出すことがある。
ブナの林か楢の林か、よく覚えてはいない。
ただ、あの夏、僕らの影法師は、確かに二つ並んでいた。
そして、どこかで玉虫が、今もキラキラと光っているような気がする。
財団に携わっているスタッフ、理事、スポンサーは大切な存在です。そしてなにより大切なのは若い生徒たちです。13年前、今は亡き父とわたしは教育を通して若い世代が彼らの夢を実現できるようにと願いました。この仕事は今後も継続し発展させていく所存です。南カリフォルニアのラーニング。センターから、ワシントンDCでのアール
財団に携わっているスタッフ、理事、スポンサーは大切な存在です。そしてなにより大切なのは若い生徒たちです。13年前、今は亡き父とわたしは教育を通して若い世代が彼らの夢を実現できるようにと願いました。この仕事は今後も継続し発展させていく所存です。南カリフォルニアのラーニング。センターから、ワシントンDCでのアール